・長所と短所を知りたい!
こんな疑問に答えます。
仮想通貨プロジェクトには斬新で目を引くものが多いですが、投資をする前にはしっかりとその本質を見極める必要があります。
最近話題になっている日本発の仮想通貨Xcoinについて分析し、当サイトとしての評価を表明します。
・ 一次情報を重視してできる限り科学的に解説しています
この記事の目次
xcoinとは?
株式会社エクスコインが発行するステーブル・コインです。
イーサリアム・ブロックチェーン上で156種類の仮想通貨を発行します。
作家の竹田恒泰氏が代表を務める「エクスコイン」(日本法人)と外貨両替所「エクスチェンジャーズ」は11日、法定通貨を価値の裏付けとして持つ日本発の暗号資産(仮想通貨)「xcoin(エクスコイン)」を発行すると発表した。12月中旬に両替所で取り扱う156種類の通貨それぞれに対応した仮想通貨を発行。専用アプリを使って決済や送金、外貨両替などに利用できるという。
公式の竹田恒泰チャンネルで記者会見の様子を確認できます。
また、ホワイトペーパーが公開されています。
『世界の法定通貨と同価値となる暗号通貨を普及させるプロジェクト 日本発ステーブルコイン』
xcoinについて深く理解したい方は、動画を観るよりもホワイトペーパーを優先して読むことをおすすめします。
なぜなら、動画では「①すでに実現していること、②今後実施する予定のこと、③規制等との兼ね合いから実際に実施できるかわからないこと」の3点の区別が不明瞭な状態で説明している部分があるためです。
xcoinの概要
xcoinの概要についてまとめます。
開発者の竹田恒泰氏は、両替業務を営むExchangersの代表を務めています。
これはxcoinプロジェクトとシナジーを生むため、非常に大きな強みといえるでしょう。
竹田氏はイングランド銀行の地下に保管される何億円分もの大量の金の延べ棒を見たときに、「思いついてしまった」そうです。
ビットコインはボラティリティ(価格の変動)が大きく、決済には適さないとされています。
xcoinはその点を法定通貨と価値が等しくなる「ステーブルコイン」の形を取ることで解決しました。預かった金額をすべて保管し、そのうち半分は国家に供託します。
世界各国の156種類の仮想通貨を発行し、銀行よりも低コストで自在に価値を変換できる金融プラットフォームを構築し、金融界のAmazonを目指すとしています。
2年前に約4億円を調達し、開発を続けてきたそうです。
なお、xcoinは法的には前払式支払手段の形をとるため、厳密には法的な意味での仮想通貨には該当しません。
評価できる点
下記の点が評価できると思います。
・一強総取りのIT時代において、日本企業として高い目標を掲げ、率先してアイディアを形にしている
竹田氏がいうように、日本はGAFAをはじめとする米国や中国のIT企業に大きな遅れを取っています。
米国のGAFAがたったの4社で約400兆円の時価総額を誇るのに対して、日本は東京証券取引所のすべての企業が束になってようやく600兆円程度の規模感です。そこには想像を絶するほどの溝があります。
xcoin、エクスチェンジャーズ社のような日本企業が金融セクターで世界的に大きなシェアを握り、巻き返しを図ることを私も期待しています。この点、金融界のAmazonを目指すという竹田氏の目標は素晴らしいと思いますし、応援したいのは山々です。
xcoinの問題点
しかしながら、分析してみると現状ではいくつかの問題点があると感じます。
そのため、ここから先は厳しめのレビューとなります。
大きく3つの視点から考察します。
1.セキュリティ上の懸念
xcoinは156種類の法定通貨にペッグされた仮想通貨の総称ですが、実際には目新しい技術は使われていません。
すべてイーサリアムのプライベート・ブロックチェーン上で発行されることになります。
平たくいうと、イーサリアムを156個複製して、それぞれに異なる名前とロゴマークを付している状態です。
つまり、xcoinの基本的な性能はイーサリアムそのものです。
ナカモトサトシが作成したビットコインのホワイトペーパーに感化されている方はなかなか気づかないのですが、ビットコインやイーサリアムのセキュリティレベルは低く、脆弱性を抱えています。
ハッキングを原因として数多の被害が出ていますが、秘密鍵を喪失するといった初歩的なミスでも資産が永久に失われます。
仮想通貨取引所のトップが死亡し、秘密鍵がわからなくなったことから、約150億円分の仮想通貨が失われた事件が記憶に新しいところです。
(本当は死亡したのではなく、150億円を持ち逃げしたのだとは思いませんか?)
xcoinは金融界のAmazonを目指しているようですが、仮に将来xcoinが普及して規模が拡大したとき、脆弱なセキュリティが問題になるかもしれません。
私はこの設計が将来的な問題点になる可能性があるだと考えています。
(とはいえ、ほとんどの仮想通貨プロジェクトはイーサリアムがスタンダードとなっているので、これが危険であるという共通認識が形成されるに至るまでには、まだまだ時間がかかると思います。)
どれほど便利なプロダクトであるとしても、金銭を扱うプラットフォームである以上、セキュリティが脆弱であることは大きな懸念点になると思います。
セブンペイの事件をみるとわかりますが、堅牢なセキュリティはプロダクトの根幹であり、最も重視されなければならない点です。
竹田氏の記者会見やホワイトペーパーにおいて、セキュリティへの言及がほとんどなされていない点が気になります。
2.リスク管理上の懸念
記者会見では、現在と未来の時系列を混同した状態で話が進んでいるように思えます。
仮想通貨交換業と資金移動業に登録しているのか?
xcoinとエクスチェンジャーズ社の現在の法的地位には注意が必要です。
法律上の分類
xcoin currencyは、資金決済法が定める「自家型前払式支払手段」である。同社は通貨両替業を営んでいて、顧客は、同社から通貨を買い受ける際に代価の弁済のために用いることができる。同社は資金決済法の規定に従い、発行残高の半額を法務局に供託する。
まず、下記の2点を確認しておく必要があります。
・資金移動業の登録が未了
とりわけ資金移動業については、現状では認可される可能性は低いと思います。資金移動業の登録をするためのハードルは非常に高く、デジタル通貨関連の企業に対して金融庁は慎重になっています。
具体的には、資金移動業として登録するための要件のうち、下記の2点が原因で認可されない可能性があります。
・資金決済法を遵守するために必要な体制の整備がされていること
「体制の整備」とひとことで書かれていますが、求められる水準は非常に高いと考えてください。ちなみに、ホワイトペーパーには下記のように記載されています。
エクスチェンジャーズ社(日本法人)が前払式支払手段であるxcoin currencyを買い戻して日本円を払い出すためには、日本において「資金移動業」の登録を済ませる必要があると見られる。同社は現在、資金移動業の登録を申請していて、登録後に日本円の払い戻し業務を実施する予定である。
問題なく登録が完了することを前提とした設計となっていますが、資金移動業として認可されなければ、トークンを日本円に変換することができません。
2019/12/23 追記:
竹田氏のツイッターアカウントに下記のツイートがありました。
資金移動業の登録は、私たちにとってそれほどハードルは高くありません。春には問題なく取得できると考えています。エクスチェンジャーズは40人の従業員を抱えて両替業を行っていますので、管理体制は初めから構築済みですの。ゼロから立ち上げる会社とは前提が異なります。
— 竹田恒泰 (@takenoma) December 17, 2019
登録にはかなり自信を持たれているようです。資金移動業の登録ができるとかなり大きな前進となるので、注目ですね。
国際的に信頼されている監査法人の監査を受けることは可能か?
ホワイトペーパーには下記の記載があります。
同社が保管する預金や資産の詳細を常にウェブサイトで公表し、また定期的に国際的に信頼されている会計事務所の監査を受けてその結果をウェブサイトで公表する。
国際的に信頼されている会計事務所は、おそらくBig4とよばれるプロフェッショナルファームを指していると考えられます。
具体的にはDeloitte、PwC、EY、KPMG等の会計事務所が挙げられますが、国際的な潮流として、いずれのファームも仮想通貨やデジタル通貨の案件を受注することにはかなり消極的です。
ただでさえ新規受注を停止しているファームが多い中、監査を受けられることが確定している事実であるかのように記載している点について、不信感を覚えてしまいます。
(もちろん、実は既に契約締結済みという可能性はあります。)
名称の紛らわしさ
xcoinという名称を目にしたときに、「おや?」と思った方は多いのではないでしょうか。
当サイトのサイト名にもなっている「EXコイン(EXC)」と似たネーミングとなっています。
商標の権利関係などが気になり、実際に調べてみました。
まず、EXCの商標はこちらです。(出所: 特許情報プラットフォーム)
商標は『EXcoin』であり、称呼は『イイエックスコイン』と『エクスコイン』のふたつが登録されています。
次に、xcoinの商標はこちらです。(出所: 特許情報プラットフォーム)
商標は『§XCOin』であり、称呼は『エックスコイン』、『コイン』のふたつです。ステータスは係属-出願-審査待ちとなっており、まだ登録を認可されていないことがわかります。
私は知的財産権の専門家ではありませんが、名称が似通っているので、紛らわしいと感じます。
審査をする際に特許庁も気づくはずなので、どのような判断になるのかが気になるところです。
3.マネーロンダリングにより犯罪の温床となるおそれ
各国の当局は仮想通貨を利用したマネーロンダリングを問題視しています。
ホワイトペーパーには下記の記載があります。
各種xcoinは店舗と専用ウォレットで購入・売却(払戻)することができる。
日本国内に10店、香港に1店を構える外貨両替所「Exchangers」にて現金とxcoinを交換することができるほか、専用ウォレット「xcoin wallet」で各種xcoinとETHを交換することができる。
上記の通り、xcoinをイーサリアムに交換することができるようです。
金額が大きい場合にはKYCを実施する等の方法でマネーロンダリングを防止すると謳っていますが、イーサリアムを経由できる以上、完全に防止することは難しいでしょう。
KYC機能はまだ実装されていませんが、下記の場合に本人確認を求める方針のようです。
B 特別の注意を要する取引
・疑わしい取引
・同種の取引の態様と著しく異なる態様で行なわれる取引
C 閾値以下の複数の関連する取引の合計値が閾値を超える場合
D ハイリスク取引
E ハイリスク取引が200万円相当額超となる場合
管理人れいの結論
少し厳しい表現にはなりますが、「見切り発車」という印象を受けます。
具体的には、①セキュリティと②マネーロンダリングの2つの側面に問題があると考えています。
ビジネスにおいてスピード感は重要ですが、重大なリスクとなりうる懸念事項はしっかり事前につぶしておく必要があります。
Libraの二の舞を演じるのではないか
xcoinは156種類の仮想通貨を発行しますが、通貨発行権と仮想通貨の法的地位の決定権は各国の当局にあります。
現状では、Libraと同じように身動きがとれなくなる可能性があると私は思います。
竹田氏は「GAFAがやると潰されるが、ベンチャー企業なら問題ない」という趣旨の発言を繰り返していますが、根拠はあるのでしょうか。
「これから考える」ことが多すぎる
また、今後規模が拡大したときの方針についても未確定事項が多いようです。
(※4)エクスチェンジャーズ香港は、MSOライセンスに基づきxcoin walletを通じて交換と送金を実施する。xcoin currencyの種類や在庫の状況によっては現物との交換ができない場合がある。通貨の払い出しは在庫を上限に実施し、また在庫不足の際は補充するなどにより可能な限り応じる。
上記を読むと、場合によってはトークンを長期間日本円に戻せなくなる可能性があると解釈できます。
価値の保存は100%なされるわけではない
100%価値が担保されたステーブルコインとして位置付けるようですが、実際には日本政府に供託する金額は預かり資産の50%にすぎません。
残りの50%については、エクスコイン社が倒産すれば戻ってこない可能性がありそうです。
「国債で運用する」等の発言もあり、経営者の判断ひとつでリスク資産に転換されてしまう可能性がある点も気になります。
まとめ
おもしろいプロジェクトではありますが、現状ではなくしておくべきリスクがまだ残っているように感じました。
今後に期待したいと思います。
ここでお話した問題点は、xcoinのみならず他の多くの仮想通貨プロジェクトにも当てはまることです。
ぜひクリティカル・シンキングの一例として参考にしてみてください。
最後に、国産通貨対決としてxcoinとEXCを比較してみました。それぞれの違いを知りたい方は次の記事をどうぞ。